女性スキーヤーを悩ます「股関節の痛み」の原因を探る ~全日本スキー技術選を終えて~

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フィジカルコーチ

大野高峰

第62回全日本スキー技術選手権大会が北海道のルスツリゾートにて開催されました。

現地でトレーナーの方と情報交換している中で、今年特に女性選手から「股関節」「腰部」の痛みや違和感の訴えが多いという情報を得ました。今回は、この問題に焦点を当て、その原因を探っていきたいと思います。

競技特性の変化が股関節に与える影響

技術選で評価される滑りの傾向が変わったことで、ターン弧が小さくなり、より深いエッジングが求められるようになりました。これは、股関節への負担増大に繋がっていると考えられます。

・2021年の全日本技術選↓

2025年の全日本技術選(優勝者:弥永選手のみ)↓

いかがですか?

2021年:ターン前半でスキーが下へ落ちずにトレースしている

2025年:落下方向へダイレクトにエッジングしている

よって大回りのターン孤は、2021年より2025年の方が小さくなっています。

ターン孤が小さくなるということはそれだけ板のラディウス以上に深い孤をする必要があります。外力を最大限利用して板を撓ませる分、身体にかかる負荷は大きくなるのではないかと思います。

女性特有の身体的特徴も関係?

股関節の形状や筋肉の使い方が男女で違う傾向があるため、股関節への負担を大きくしている可能性があります。

特徴⑴:前捻角

女性は前捻角が大きい傾向にあり、股関節が外旋しづらいです。

前捻角とは、大腿骨頸部と大腿骨体の捻れの角度のことで、通常は15度程度の前捻があります。

女性の方がこの前捻角が大きい傾向にあると言われています。※1

前捻角が大きいほど、股関節の外旋はしづらくなります。

特徴⑵:ハムストリングの筋力

女性はハムストリングの筋力が低い傾向にあるという報告もあります。

バックスクワット中の筋肉の活動パターンを調べた研究によると、バックスクワットの下降局面において、男性の大腿二頭筋で有意に高い筋肉活動が明らかになりました。※2

またU15のアルペンスキー選手のノルディックハムストリングの下降局面の筋活動を調べた研究では、女性選手の方が最大遠心性ハムストリング筋力が低い結果でした。※3

VALD PERFORMANCE NORDBOAD HAMSTRING TEST SYSYTEM 引用

女性の方がハムストリングの筋力発揮がしづらい傾向があるかもしれません。

特徴⑴:骨盤の前傾

女性は骨盤が前傾しやすく、股関節に負担がかかりやすい姿勢になりやすいです。

前述の通り、女性の方が前捻角が大きい傾向にある為、股関節が安定しづらいです。骨盤を前に傾けて股関節の安定を増加させる傾向にあります。

そのため、女子選手は骨盤が前に傾いていることが多い印象です。

骨盤が前に倒れることで股関節前面の筋肉は硬くなり、筋肉のバランスは悪くなります。

ハムストリング、臀筋、腹圧上手く利用できず骨盤-大腿に関わる股関節には大きな負担がかかる気がします。

https://www.baptisthealth.com/blog/sports-medicine/anterior-pelvic-tilt参照

「左」の様な姿勢になりやすいです。

更にスキー板を履いているだけで、股関節は内旋位にある為、骨盤前傾-股関節内旋位で姿勢が固まりやすいです。

股関節で大腿骨と臼蓋が衝突し(インピンジメント)関節唇の損傷や骨や軟骨に変化が生じてしまうこともあります。腿を抱えると股関節の付け根に詰まり感や違和感がある方は要注意です。

股関節への負担を軽減するために

次これらの原因を踏まえ、股関節への負担を軽減するためのコンディショニング方法の一例をこちらで紹介しています↓

参考文献

※1:Gender differences in 3D morphology and bony impingement of human hips Ichiro Nakahara et al 2010
※2:Electromyography Comparison of Sex Differences During the Back Squat Mehls Kelton et al 2022
※3:A Cross-Sectional Observation on Maximal Eccentric Hamstring Strength in 7- to 15-Year-Old Competitive Alpine Skiers Kirsten Kiers et al 2021